ネットって、本当に便利ですよね。
調べたいことがあれば、すぐに答えが見つかる。
でも最近、その便利さの裏で、
少しだけ戸惑いを感じることもありませんか?
同じような情報ばかりが並び、
気がつくと、
自分の関心の輪の中をぐるぐる回っている、
そんな感覚になるのです。
一方で、書店の棚の前に立つと、
風が通り抜けるような自由さを感じます。
そこには、アルゴリズムではなく、
人の感性が生んだ
“偶然の出会い”があるからでしょうか。
知らない棚が教えてくれる「今」
人材教育業をしていた頃、
私は書店に行くと、
関心のないジャンルの棚にも
足を運ぶことを習慣にしていました。
背表紙やタイトルを眺めているだけで、
「今って、こんな言葉が流行っているんだ」とか、
「こういうテーマが注目されてるんだな」と感じられるからです。
それは、単なる情報収集というより、
“時代の空気を吸い込むような時間”。
ページを開かなくても、
装丁や並び方から、世の中の流れが見えてくる気がします。
ネットでは得られないこの感覚が、私は今も大好きです。
思わず立ち止まる、予想外の発見
ある日、少女漫画のコーナーを
端から端へと眺めていたときのこと。
その先に“おとなジャンル”が続いていて、
思わず我に返りました。
レディースコミックというジャンルが登場した
初期の頃だったと思います。
絵のタッチは可愛いのに、
ページを開くと、かなり大胆な描写が広がっていて
――驚きと同時に、
つい周囲の視線が気になってしまいました。
「こんなに刺激的な本が、少女漫画のすぐ隣に置かれているなんて…」
勝手にどぎまぎして、
かえって怪しい雰囲気を漂わせていたかもしれません。
でも、だからこそ書店って、
こういう“予想外の出会い”を通して、
自分の感覚を少し広げてくれる場所なんですよね。
その街の書店には、表情がある
どの街にも、その店ならではの個性があります。
同じビジネス書でも、
軽やかな実用書を多くそろえる店もあれば、
思想や経済の深い本を
じっくり置く店もありますね。
私がうんと若い頃、
偶然入った書店には、
世界の幻想文学がずらりと並んでいました。
「こんなジャンルの本をまとめて扱っている書店があるなんて」
と、胸が高鳴り、
その後しばらく通ったものです。
40年以上も前のこと、
その当時は、紀伊国屋書店以上に
そのジャンルに特化していた書店でした。
先日、なんと40年ぶりに
用事のついでに立ち寄ってみたのですが――
残念ながら、もうそこに書店はありませんでした。
あのときの空気を思い出しながら、
静かにフロアを歩きながら、
胸の奥に小さな喪失感が広がりました。
本を手に取る人の姿や、紙の匂い、照明のやわらかさ。
それらがすべて、
もう過去の風景になってしまったのだと思うと、
少し切なかったのです。
さて、話がそれましたが、
本の並び方ひとつにも、
店主の感性や街の文化が表れています。
小さく添えられた手書きのメモ(ポップ)からも、
誰かの息遣いが伝わってくるよう。
それが、ネットでは決して味わえない、
“人の選択”のぬくもりなんですよね。
書店には、アルゴリズムの風が吹かない
ネットは便利だけれど、
どうしてもアルゴリズムが働いて、
情報が偏りがちです。
自分の興味がある分野ばかりがすすめられて、
気づけば視野が狭くなってしまう。
でも、書店は違います。
誰かの手で選ばれた本が、
偶然の配置で並び、
私たちの前に静かに待っている。
ページをめくる手ざわりや、
装丁の質感、紙の匂い。
そんな“物理的な偶然”が、
私たちの思考をやわらかくしてくれるのでしょうか。
ときには、
店主の遊び心が光るコーナーに出会って、
「あ、これ面白そう」と心が動くことも。
書店は、ただの販売の場ではなく、
“感性が交流する小さな宇宙”のような場所ですね。
結びに
ネットがどんなに進化しても、
書店を歩く時間はきっとなくならないでしょう。
そこには、“今”を感じ取る喜びと、
“知らなかった自分”に出会うチャンスがあるから。
もちろん、書店の経営が難しくなっている現実も感じます。
そうであれば、
たとえばショールームのように
「並べること自体に価値があり収益を生む」仕組み――
そんな新しいビジネスモデルが生まれたらいいのにな、
と夢想することもあります。
効率がすべての時代にあっても、
私たちはきっと、偶然という贈り物を求めている。
そして、それを受け取る場所のひとつが、
今も街角の書店なのだと思います。
\Xに投稿したポスト/
本屋さんでは、関心のないジャンルの棚にも足を運び、知らない世界をのぞきにいく――
そんなふうにして、思いがけない掘り出し情報を見つけるのが好きです。
すると、少女漫画の続きで“おとなジャンル”があったり、古典文学の奥にも突然“おとなジャンル”が並んでいたりして。… pic.twitter.com/LtlkOGlEKa
— 山辺千賀子/やまべちかこ (@white7pearl) October 17, 2025
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